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大阪高等裁判所 昭和63年(く)124号 決定 1988年10月20日

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件即時抗告の趣意は、弁護人洪性模作成の即時抗告の申立書及び弁護人本渡諒一、同洪性模共同作成の抗告理由補充書、第二抗告理由補充書各記載のとおりであるから、これらを引用する。

論旨は要するに、(1)原裁判所は、被請求人が昭和六三年六月二四日大阪池田簡易裁判所において懲役六月に処する判決の言渡を受けた事実を、確定判決による有罪判決を受けた場合と同様に執行猶予言渡の取消事由としているが、被請求人は、右有罪判決に対し控訴して現に大阪高等裁判所において審理中であり、被告人は有罪判決が確定するまでは無罪の推定を受けるのであるから、右確定していない判決を他の刑事事件に援用することは許されない、(2)執行猶予言渡取消請求事件において口頭弁論が開かれた場合は、その結果に基づいて心証形成をし取り消すか否かを決定すべきところ、原決定は同年一〇月一四日午前一〇時の口頭弁論を開く前に既に心証形成がなされ決定正本が作成されていたことが、被請求人が決定正本を決定直後に受領したことからも明らかであるから、原決定の手続は刑事訴訟法、刑事訴訟規則に反し違法である、(3)被請求人の弁護人は、弁護人の意見陳述及び証拠調べの請求をするため、前記口頭弁論期日(弁護人は、右期日には別件の裁判の期日が既に指定されており、本件事件に出頭できなかった)の変更要請を何度も原裁判所にしたが、同裁判所はこれを無視して弁護人が出頭しないまま口頭弁論を強行して決定をなしたものであるから、原決定には審理不尽の違法があり被請求人の裁判を受ける権利を侵害しているのみならず、弁護人ぬきで口頭弁論を開いたことは、刑事訴訟法三四九条の二第三項(抗告理由補充書に二四九条の二とあるのは誤記と認める)の趣旨を没却し、適正な執行猶予言渡取消決定手続によったものとはいえず、同条第二項違反、ひいては憲法三一条に違反している、(4)原決定は、被請求人は執行猶予者保護観察法五条一号に定める遵守事項及び同遵守事項を守るための指示事項に違反し、その情状が重いと認められると認定しているが、被請求人の所為は仮に有罪であるとしても単なる見張り役としての従犯が成立するに過ぎず、窃盗による被害はすべて回復されており、以降被請求人はまじめに定職につき悪友との交際も断っているから、情状が重いとはいえない、以上いずれにしても原決定は違法であるから取り消されるべきである、というのである。

そこで、所論にかんがみ一件記録を調査し、当審における事実取調べの結果(別件窃盗事件の記録をも含む)をも併せて検討し、次のとおり判断する。

所論(1)について

しかしながら、執行猶予者保護観察法五条一号の善行保持義務違反の内容が犯罪行為である場合には、右犯罪行為につき公訴裁判所による裁判の確定を待たなければならないものではなく、他の善行保持の事実と同様に独自に認定ができることは当然であるところ、原決定も、有罪判決を受けた事実が直ちに善行保持義務違反になるとしているのではなく、右の趣旨で、善行保持の一要素として犯罪事実を認定しているものと理解できるから、原決定に所論の違法はない。

所論(2)について

しかし、記録及び当裁判所における事実取調べの結果によれば、原審は、被請求人が出頭した口頭弁論の結果に基づいて原決定の告知をしたものであり、原決定書の原本は同口頭弁論終了後完成し謄本が被請求人に送達されたことが認められるから、所論は前提を欠き失当である。決定書の原稿が口頭弁論の前に準備されていたとしても問題とすることはない。なお、原決定の冒頭には、所論も指摘するとおり口頭弁論に出頭しなかった弁護人の意見を聴いた旨の記載があるが、それは単なる誤記か、弁護人の意見を聴く機会を与えたとの趣旨と思われる。

所論(3)について

記録等によると、原裁判所は、昭和六三年九月一三日検察官より本件執行猶予言渡取消請求があったので、直ちに被請求人に右請求書謄本を送達したほか、刑事訴訟法三四九条の二等の規定に基づいて執行猶予言渡取消についての意見を求め、口頭弁論請求権及び弁護人選任権も告知したこと、これに対し同月一七日、被請求人から右意見が記載され口頭弁論を請求する旨の回答書及び弁護人吉野和昭を選任する旨の弁護人選任届が提出されたこと、そこで、原裁判所は、本件を口頭弁論に付しその期日を同年一〇月一四日午前一〇時に指定する旨の決定をなし、同決定書は、九月二一日被請求人及び弁護人に送達されたこと、ところが、口頭弁論期日の前日の一〇月一三日、被請求人より突如右弁護人を解任する旨の解任届が提出される(その理由につき被請求人は、後記口頭弁論において、吉野弁護人から辞めたいと言われたとしか述べない。なお、別件の窃盗控訴事件では、同弁護士は依然として弁護人である。)とともに、弁護人洪性模(本件杭告申立人)を選任する旨の弁護人選任届及び同弁護人からの期日変更申請書が提出されたこと、右期日変更申請書では、その理由として、別件期日の証人尋問のためと記載されているが、なんらの疎明資料は添付されていないこと、前記期日の口頭弁論は予定どおり開かれ、その冒頭原裁判所は、右弁護人洪性模申請の期日変更請求を却下する旨決定告知したこと、同口頭弁論期日では、弁護人は出頭しなかったものの、被請求人が出頭して証拠調べがなされ、検察官が意見を述べたほか、被請求人も執行猶予取消についての陳述をなし、最終陳述の機会も与えられたこと、以上の事実が認められる。そして、以上の経過事実のもとで本件を考えると、原裁判所が弁護人の期日変更請求を却下して弁護人不出頭のまま口頭弁論を開いたのはやむを得ないものというべきであり、前記口頭弁論の状況に照らしても審理不尽というにはあたらず、被請求人の裁判を受ける権利を侵害したとも、所論指摘の憲法ないし刑事訴訟法に違反しているともいえない。

所論(4)について

しかし、記録によれば、本件善行保持義務違反の内容とされる犯罪事実は原決定認定の二件の窃盗の事実のとおりであると認められ、被請求人はいわゆる見張り役ではあるが共同正犯としての責任を免れないものというべく、その他右犯行の態様、悪い友達と交際しないよう再三注意されていたのに、昭和六二年一〇月一二日ころから一〇歳以上年下の前件の共犯者らと行動を共にして前件と同じ窃盗の犯行に及んだこと、犯行後共犯者が逮捕されたことを知ったのち約二か月間住居をはなれたこと、担当保護司に転職の事実を告げていなかったことなどに徴すると、右犯行が従属的なものであることや被請求人の現在の状況等所論指摘の諸事情を考慮しても、被請求人は、善行保持義務に違反しその情状が重いものと認めざるを得ない。

よって、所論はいずれも理由がなく、原決定が本件刑の執行猶予言渡を取り消したのは正当であるから、刑事訴訟法四二六条一項により本件抗告を棄却することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 松井薫 裁判官 髙橋通延 清田賢)

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